●井上さん自身が酒造りの道に入ろうとしたきっかけは?
知人から蔵で働いてみないかと誘われて、最初はアルバイトのつもりで入ったんですよ。
●で、やってみた感想はどうでしたか?
初めての仕事だったので、段取りがよくわからなかったことと、朝が6時からだったのでちょっと起きるのがしんどかったですね。
●最初から杜氏見習として入ったのですか?
(とんでもないといった感じで)いやいや雑用としてですよ。21歳でこの世界に飛び込んで、10年間蔵人をしていました。
★杜氏(とうじ)・蔵人(くらびと)
酒造りに携わる人を蔵人と呼び、これらの蔵人をまとめ、酒造りの全責任を任された人を杜氏と言います。
●蔵人時代と比べて杜氏になってからの苦労はどうですか?
そうですね、やっぱり川亀の看板を背負っているのでプレッシャーはありますね。社長さんが熱心な人なので、それに負けないように頑張っているんです。
●杜氏として初めて造ったお酒の出来栄えはどうでしたか?
最初から麹造りで失敗してしまったんですが、僕の師匠(前の杜氏さん)と社長さんに助けてもらってなんとか完成することができました。まずまずの出来だったと思いますよ。
★麹(こうじ)
黄麹菌と言うカビの一種で、米に含まれる蛋白質やデンプンをアミノ酸や糖分に変える働きをします。
●杜氏として一番難しい作業はどんなところですか?
やっぱり麹造りですね。何回も温度を測りながら、これは遅い、これは早いとか、絶えず温度を調整せないかんのですよ。
●仕込みは年明けからですか?
はい。年明けから3月中頃まで仕込みをやっています。
●この期間は休みとかどうなんでしょう?
(苦笑いしながら)ないです。
●年明けから3月中頃まで酒造りをして、その後は何かされるのですか?
火入れという作業を4月くらいまでやります。後は空いた時間を使って、家が農家なので、富士柿(焼酎でしぶを抜いたしぶ柿)を作っているんですよ。
★火入れ(ひいれ)
腐敗防止のために55〜65度で加熱殺菌すること。(微生物を死滅させたうえで、酒は貯蔵され熟成されます)
●川亀酒造の歴史はどれくらいですか?
今年で100周年です。それで100周年を記念して、百雅(ひゃくみやび)という大吟醸酒を造りました。
●一言で井上さんからみて、川亀の酒の特徴とは?
山廃作りで味がしっかりしてますね。まぁその味を出す技術はまだ完全にマスターできてないんですけどね。(笑)
●これを飲めば川亀がわかるというようなおすすめの酒は?
(かなり考え込んで)う〜んやっぱり純米吟醸酒ですね。
●井上さん自身はどんなお酒が好きなんですか?
(きっぱりと)ここの酒です。でも杜氏として恥ずかしいですが、あんまり飲めないんですよ。沢山飲むと酔ってしまいますんで。(笑)
★山廃(やまはい)
お酒の元になる酒母を作るには、水・蒸した米・麹・酵母に、通常は市販の乳酸を添加するのですが、空気中で自然に存在する乳酸菌を利用して乳酸を生成させ、山卸し(米を櫂棒ですりつぶす作業)を廃止した方法を山廃と呼びます。
●この世界に入って一番うれしかったことはなんですか?
やっぱり自分の造った酒が出来上がったときですね。
●将来、杜氏として夢・希望はありますか?
(少し考えてから)多くの人からうまい酒やなと言われるようになりたいですね。それだけです。
●ところで、趣味とかありますか?
磯釣りです。月に2回くらい近くの海で釣っています。
●腕前の方は?
腕前は・・・、運だけで釣ってますよ。
●これまでで釣り上げた一番の魚は?
(自信ありげに)70cmのマダイですね。(スタッフ一同、ほぉ〜)
●1〜3月といえば磯釣りシーズンですが。
そうですね、でもしょうがないです。
●酒造りをしようとする若い人が少ないと聞くのですが。
酒造りは生き物を相手にしているんですよ。酒にするまで育てていく過程がなんともいえないものがありましてね、その楽しみがわかればもっと若い人も増えてくるんじゃないかと思うんですけど。
●がんばる人井上さんから、後輩達になにかメッセージはありますか?
何か1つでもやりたいことを見つけて、目標を持って頑張ってほしいですね。
「社長さんに一言聞いてみました」
●社長さんからみられて、井上さんはどうですか?
もうねぇ11年ですが、非常にまじめでねぇ熱心な若者ですよ。
本人も責任のある立場で大変やろうと思うんですけど、彼のような意気込みがないと日本酒の世界もまた地方の蔵も生き残れないだろうし、これからの酒というものは、若い者の感覚で造っていかないかん時代になりよるもんでね、そういう意味で期待しとるんですよ。
編集者感想
「地方の零細酒造は独特の味をもった酒に仕上げないと生き残っていけない」という社長の言葉から、新人杜氏の井上さんに賭ける期待の大きさが伝わってきました。10年後には誰もが納得する酒を造ってみせると言っていた井上さん、あの職人気質さえあればきっと良い酒を造ってくれることでしょう。楽しみにしています。
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